グルテンフリーをホームベーカリーで>農研機構の矢野さん講演
- 2018/06/11
- 09:55
米粉(こめこ)パンには通常、グルテンという増粘剤が使われる。パンを膨らませる構造をもったタンパク質だがコメには欠けており、無添加の米粉はイースト菌で発酵させてもパンのようには膨らまない。しかしグルテンの入った食品を口にするとアレルギー症状を起こす人がいる。小麦アレルギーの多くはこのタイプだから、せっかくの米粉パンはグルテンフリーで頂きたい。
つくばの農研機構食品研究部門で、グルテンを使わない米粉パンの製法開発に取り組んできたのが矢野浩之さん(食品素材開発ユニット長)。6月の農研機構市民講座で講演した。演題は「米粉100%パンの開発とホームベーカリー製品化」、研究は成果品を生み出すまでになっていた。
[ホームベーカリーを紹介する矢野浩之さん(6月9日農と食の科学館)]
産学官連携でここまで来た
矢野さんには、化粧品メーカーの研究者だった経歴がある。グルテン無添加の米粉のパン生地が特定の条件下で「洗顔フォームのように」膨らむのを発見したが、そのメカニズムが分からず、広島大学に移っていたかつての同僚、ヴィレヌーヴ真澄美准教授に相談した。すると「微粒子型フォームではないか」との見解が示され、共同研究に発展した。
水相のなかの気相の回りを微粒子が取り囲み、泡(フォーム)のようになって膨らむ現象である。水と油を結びつける界面活性剤のような働きが起こっている。パン生地の場合、澱粉粒からなる水相のなかで、イースト菌から生じる気泡が増粘剤なしに成長する。
「空気を巻き込まないように生地を撹拌(かくはん)すると、小さな泡が均等にたくさんできるのが分かった。この生地を発酵させ、一気に焼き上げるとふかふかのパンができる」(矢野さん)
ただし、これには精密な温度管理が要求される。発酵中は温度を一定に保ち、焼き上げるとき高温(約200℃)まで一気に立ち上げる。このプロセスをホームベーカリーで実現するとしたら、電熱線(シーズヒーター)を熱源とする従来型では難しく、IHヒーターによる電磁調理器タイプが望ましかった。ここでも矢野さん自らがプレゼンに動き、タイガー魔法瓶(本社・門真市)との共同開発にこぎつけた。こね、発酵、焼きの工程を1台で完結できたら、グルテンアレルギーの子供たちへの朗報になるはずと説いた。
同社のGX(グランエックス)シリーズの1つとして、IHホームベーカリー「やきたて」(KBD-X100)が発売されたのは昨年9月だった。米粉100%「無添加グルテンフリー」の食パンもふっくら食感に焼き上げます──をキャッチコピーに売り出された。「農研機構との共同開発」の文句も付け加えられた。民生品でここまで産(タイガー魔法瓶)学(広島大学)官(農研機構)連携が明らかな成果品というのは珍しい。研究では同器向けの米粉も比較検討され、群馬製粉の米粉「リ・ファリーヌ」が推奨された。
「ホームベーカリーは数年前、パナソニック製のGOPAN(ゴパン)がヒットして70万台ほどが売れたため、今は飽和状態で年間10万台ほどの市場規模。タイガーさんも苦戦は覚悟の上、米粉パンで『世界中に笑顔を』という使命感から努力してくれたように思う」
[タイガー魔法瓶IHホームベーカリーのコマーシャル]
研究成果がビジネスに結実するかはまた別の話。コメの消費もホームベーカリー市場も縮小するなか、ニッチ同士をつなぐビジネスモデルとなる。「グルテンフリー」を足場に、か細い市場を国際的な視野でこじ開けようとしている。
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